
「ひめラボ」とは、基礎講座や実践講座で学んだことや、それぞれの得意なことを持ち寄り、ひめラーの仲間と一緒に地域社会に飛び出して様々な活動を展開することです。今回は「森の中のbook cafe」というひめラボの活動報告を紹介します。
その1 準備編
実施までのプロセス①
ひめラボを立ち上げたきっかけ
このひめラボを立ち上げるきっかけになったのは、数年前にTV放送された石川県にある私設図書館「みかん」のドキュメンタリー。老若男女様々な背景を持つ人たちが、本を通じてコミュニケーションをとり、絆を深めている取り組みに共感し、本は誰もがフラットに関わりあえるコミュニケーションツールになるのではないかと感じました。
そこから、本棚そのものを移動し、好きな本の貸し借りを行うことで、愛媛県内の離れたところに住む人同士でも関わりをもてたり、誰かのウェルビーイングを高めるサードプレイス(自宅や職場、家庭とも違う場所で、ストレスや責任感から開放され、ゆったりと自分らしくすごせる場所)になれたりする仕組みがあると素敵だなと思い、当初は「森の中の移動図書室」という名前でひめラボを立ち上げました。
実施までのプロセス②
初回ミーティング
ひめラボを立ち上げてからほどなくして、本が好きというひめラーさんたちが次々「この指とまれ」で集まってくれました。「挿絵にできそうなアート作品をチョイスするとかどうかな」「男木島図書館のオンバという移動図書かわいいです」「愛媛にも色々本のおもしろイベントありますよ」「ハンモックに寝っ転がってお菓子つまみながら本読みたい」皆さんのコメントを見ているとワクワクがとまりません。
まずはみんなで集まってお話しましょう!初回ミーティングは居心地のいいart venture ehime project room(以下:apr)で。


終わりたいのに終われない夏も、ちょっとだけ勢いを緩めて、窓を開け放ったaprにもわずかに心地よい風が吹く9月最後の日曜日。全6回の基礎講座を終えたばかりで、集まってくれたひめラーさん同士まだ関係がぎこちなく、「どこから来られたんですか?」「普段は何してる人ですか?」から始まりました。淹れていただいたコーヒーの香りと、お気に入りのパン屋さんの「ピスタチオ・ピスタチオ」のビジュアルに和まされ、ひめラボを立ち上げたきっかけや自身の思いを、ぽつぽつお話させていただきました。でも、まず最初のラボはそんなに大きなことではなく、「そこにいる人がすべて式」で、今回集まってくれたみなさんでやりたいこと、できることを考えて実現したいと思っていました。唯一決まっていたのは「本に関わる何か」ということ。


模造紙を広げ、付箋にそれぞれがやりたいことを書いてどんどん貼っていきます。50 個近くの「やりたいこと」を似たもの同士で組み合わせ、意見が多く取り組みやすいもの(自然の中で読書会)を実現させることを解散目標に、次回ミーティングで具体的に話し合うことを決めて今日のところは終了。ミーティング後はそれぞれが持ち寄った本を紹介したり、お互いに貸し借りをして盛り上がりました。もうすでに本を介したコミュニケーションが始まっています。
実施までのプロセス③
第2回、第3回ミーティング
10月初旬、講座後に行われた第2回ミーティング。まだお互い謙虚な距離感はありますが、本が繋ぐほんのり温かい安心感を感じます。やりたいことの実現にむけて俄然やる気のひめラーたち。ただ、日程がなかなか合わず、ギリギリ冬一歩手前の12月1日にイベントを行うことを仮決定。本来は屋外でしたいところですが、寒いことも考えられるため、今回は天候に左右されない砥部町の自然に囲まれた古民家「坪内家」での開催を提案。前回付箋に書き出した「やりたいこと」の中から、当日できそうなことをピックアップ。「朗読会」「積読本紹介貸出」「装丁の対話型鑑賞」「cafe 空間」を行い、それらが新しいコミュニケーションの場を生み出すことができるのか、まずはひめラー内で実験してみようということになりました。


第3回ミーティングではZoomで具体的に内容をつめていきます。ひめラー和田さんは今回から参加です。「普段あまり本を読まないんだけど…」と言いながらも、一緒にやってみたいと言ってくれて嬉しいです。本をあまり読まない人にも楽しんでもらえるプログラムを考えたいです。
早川さんから坪内家の世話役、日野さんに連絡をとっていただき、坪内家を借りられることになりました。間取り、使用可能な設備や備品の確認のため後日行ける人で下見に行く予定。
実施までのプロセス④
「坪内家」下見


10月下旬、「坪内家」の下見に行きました。江戸時代後期に建てられた旧庄屋屋敷。木々にあふれ、川のせせらぎも聞こえます。邸内は和室の部屋がいくつも広がり、落ち着いた雰囲気。どの部屋も自由に使っていいとのこと。気候のいい時期だと広い縁側で陽だまりの中、本を読んだら気持ちよさそう。水場、暖房器具などを確認。本のイベントの雰囲気にピッタリの場所でした。案内をして下さった世話役の日野さんから、帰りに原木から立派なシイタケを採って持たせてくれました。心癒される1日でした。

実施までのプロセス⑤
第4回ミーティング / 実施に向けて


第4回ミーティングもZoom で。下見の報告、担当、準備物の分担決めなどをしました。それぞれにできること、得意なことに積極的に手をあげてくれて、改めてみなさんのスキルと主体性の高さに感嘆するばかりです。かなり細かく内容が決まり、西田さんがチラシを作成してくれました。イメージ通りのかわいいチラシに感動。
また、実施に向けた準備のほか、このひめラボの目的について、ラボメンバーのみんなで意見を出し合い、より明確にしていくことで、企画書を充実させていきます。
当日まで2週間。鑑賞実践講座の日。イベントまでに全ひめラーが集まる最後の機会なので、アナウンスをしました。急な募集になってしまったにも関わらず参加してくださる方がいてとても嬉しいです。
寒い日が続いているけど… 当日はどうかな。お天気だといいな。
イベント前日、会場に来ることが出来るメンバーで掃除や会場の器具・備品等の確認をしました。坪内家の日野さんにもお手伝いいただき、襖の修理・はめ込み作業をして頂きました。150年余りの歴史を刻む旧庄屋屋敷なので痛みが激しいのです。とにかく気になったのが寒さです。12月の砥部は冷え込みます。本どころではなくなる可能性もあるので、会場にあったストーブの他にメンバーの自宅からファンヒーターを追加で2台持参しました。
その2 実施編
【森の中のbook cafe】
オープンに向けた準備

日 時|2024年12月1日(日)10:30–15:30
場 所|伊予郡砥部町川登578 坪内家
参加者|〈 ひめラー〉福原真季・加藤翔・久保裕愛・早川晶子・秦元樹・宮本奈苗・中島佐知子・西山琳・西田真帆・和田玲子・大江泰代(積読本)
当日は、オープンより少し早めに来て、みんなで準備です。


〈カフェ空間〉茶ぶ台の上に砥部焼のカップや紙カップ、ティーパックやコーヒーパックを並べます。いつでも飲めるように隣にはポットを置いてスタンバイ。お菓子はメンバーが作った手作りの物や家にある食べきれないお菓子をたっぷり。お気に入りのマイカップやテーブルを彩るお花を持参する人もいて、くつろいだ時間を演出してくれました。(早川)


カードに積読、愛読理由を書いて本に挟んで並べます。
癒される音楽の選曲は秦さんが。



〈看板〉ラボ名を聞いたときにイメージしたのは、木漏れ日溢れる深い森の小川沿い…。そんなところで集まって、本を片手に過ごせたら素敵だなあと思って参加しました。初回は冬ということで場所をお借りすることになりましたが、いつか本当の森の中で開催することもイメージしながら、どこで開催したとしてもその場所が「森の中のブックカフェ」になるように看板をつくることに。豊富な企画に合わせて場所や演目ごとに作成しました。真面目に緩い雰囲気を出すために、明朝体で「余計な一言」を付け加え、5.5mm ラワンベニヤにレーザー刻印しています。使いまわせるよう作ったつもりなので、ぜひ二回目以降も開催したいです。次は何つくろうかな(西山)
さて準備が整いました。
【森の中のbook cafe】オープンです!


◆装丁の対話型鑑賞①
もっと装丁本らいしいものと考えましたが、『身近、日常』なものを『非日常』の世界で鑑賞。『みる、きく、考える、はなす』。何気なく見ていた表紙の作品が今にも動き出すかのように、それぞれ感じたこと等話す。情緒豊かに物語が生まれ、奈苗さんが涙したり、せつなさ、孤独、削りとられた何か、海の闇深さ、その中にある緑、教会、平穏や幸せみたいなものが訴えるもの。本の中身を知らなくても目に見えない感情が伝わり本の中身を知りたくなる。中身を知らなくても共感し新たな発見、物語が味わえる。より作品を深く知れる。この空気、感覚や目に見えない心の動きを形にできると、身近なものの価値を感じれる。新たなものを創出できる。
今後も、本を介したコミュニティをどんな形で展開するか、私たちこのひめラーだからできる今あるものを生かして新たなものに展開できる。この共感して場に物語が生まれる感覚。次また話しあいが楽しみです。(和田)

◆朗読会①
絵本はまさに対話型鑑賞の一つの形。絵で表現されたものに、文章が載っているのだから。また、大人になると、絵本は、自分が読み聞かせることはあっても、読んでもらう機会は少なくなるので、その体験をしてもらえればいいなと思い絵本を選びました。
朗読は久しぶりだったので緊張しましたが、ページの絵の色々な部分に鑑賞者の人が目が行くように、読むときに説明的にならないように、それぞれが感じたりできる余白を持てるように読めたらと思いチャレンジしました。
もっとブラッシュアップして、対話型鑑賞を学んだからこその絵本の読み聞かせができればいいなと思いました。
絵のない本の朗読にもチャレンジしてみたいです。(宮本)

◆朗読会②
朗読会の1作目は絵本とのことで、2作目は触れる機会は少ない?演劇の戯曲( 台本) の中からずっと好きだった作品、オノマリコ『三月十一日の夜のはなし』の朗読を行いました。
地震の日、東京都、直接被災はしていない、あの日の出来事。久しぶりに家族と過ごしたこと、いつもの人や初めての人、普段だと起こらなかった、いつもと違うあの日の特別を語った作品。読み終わったあと、聞いてくれたひめラーの中から「これは私の話かも知れない。」との声が上がり、震災の時にどこに居た、考えたこと、起きていたこと。自然と話しをしていく時間となりました。普段話す機会のなかった話題を、作品を通じて、ぽつりぽつりと話すことが出来る。そんな時間の大切さを確認する機会にもなりました。
普段は演劇に携わっているのですが、朗読だから出来ることも発見?!また挑戦したいと思います!(秦)


◆装丁の対話型鑑賞②
美しく優しい色彩で描かれた装画の絵本を使った対話型鑑賞。表紙と裏表紙の絵を対比させながら、それぞれ自由な発想をふくらませ、タイトルの「あのこ」について対話し、深く楽しい鑑賞ができました。物語の内容を知っていたので、最後に我慢できず正解を言ってしまい、ファシリテーターとしてはまだまだ… のびしろしかないwa。(福原)


◆積読本&愛読本の紹介
本はそれ自体にストーリーがありますが、その本を手元に迎えるにあたってのストーリーもあるのではないか?あるならば聞いてみたい。そんな思いつきから始まったコーナーです。購入したものの一度も読んでいない「積読本」と、何度も繰り返し読んでしまう「愛読本」、なぜ積んでいるのか、あるいはなぜ愛読しているのかについて、その本を持ってきたご本人に語っていただきました。すると、出るわ出るわの面白エピソード!積読本と愛読本は対極にあるようでいて、一つの本に対するその人の「思い」から派生する話は聞く人の興味をそそるものでした。エピソードを通じてその人自身を知れる機会になったのも嬉しかったです。本を積みがちな私ですが(笑)、それも悪くないなと思える楽しい時間でした♫(中島)

イベントを終えて
参加者がみんなひめラーで、しかも本が好きな人の集まりということで、安心感と信頼感に溢れた幸せいっぱいの和やかな雰囲気だったと思います。坪内家という、暮らしの中に自然があった時代の古民家で開催されたこと、西山さんの看板や、その他小物も、皆がそれぞれ「森のブックカフェ」を意識していて、そして、好きに食べられるお菓子やお茶もあり、自由で居心地のいい空間が作れたかなと思います。参加者の本への愛と、本と過ごす時間を大切に思う気持ちが表現された素敵空間だったなと思います。 ...ほめすぎ?(宮本)

ひめラボに参加して
「本」というと一般的には、堅苦しく思われたり、難しく思われたりしがちなアイテムかもしれませんが、そうではなく、「本」をもっと身近に感じてもらって、手軽に楽しんでもらえる場作りができないかなという想いが出発点で始まったこのラボ。場つくりに関してはおおむねうまくいったのではないかなと思います。案外環境というのは大事で、自然だったり、畳だったり、そういった、私たちがなんとなくほっこりするものに囲まれた空間を利用できたことも良かったと思います。
コンテンツもどれも、考えていたよりもずっとよかった!と自画自賛しています。「本」を介することで、自分自身に気付いたり、自分を表現したりが、気負わず自然に(←ここ重要) できる内容だったかなと思います。課題としては、各自で本を手に取って味わうような時間を作れれば更に良かったかなと。
「好きななにか」今回は「本」を中心とした集まりは、それだけでも場に安心感が生まれる事もよくわかったので、今後、様々なコミュニティやシーンで今回のコンテンツを活用していくことができそうだとワクワクしました。(宮本)

ひめラボを終えて
ラボを立ち上げた時は、わからないことがいっぱいで、本当に自分にできるのか、みなさんに受け入れてもらえるのか不安でしたが、勇気を出してラボを立ち上げて本当に良かったと思います。今回「ひめラボ」として1番感じたのは「そこにいる人が全て」だったということ。初回ミーティングからメンバー全員がアイデアを出し合い、それぞれができることに積極的に手をあげ、行き詰ったときはみんなで意見を出し合い、最終的にイベントを成功させることができました。全員で作り上げた素晴らしいラボだったと思います。間違いなくこのラボは私のサードプレイスになりました。自分らしくいられる場所、心から安心して楽しいと思える場所、そこにいる自分自身が好きになれたら、人は人生をよりポジティブに幸せを感じて生きていけると思います。今回のラボで感じたこと、得られたものを忘れず、今後も誰かが人生をちょっといい気分で送れるお手伝いができるよう考えていきたいなと思います。
(1 期ひめラー 福原真季)