
【第4回基礎講座 愛媛におけるウェルビーイング】
日時|2025年5月24日(土) 10:00–15:00 (昼休憩1h)
場所|愛媛県庁 第一別館 6階 トライアングルベース
講師|井口梓(愛媛大学 社会共創学部 教授)
今回のタイトルにある「ウェルビーイング」という言葉を聞いて、皆さんはどんなことを思い浮かべますか?
一般的には、心が満たされ、身体的にも充実していて、ワクワクした幸せな気持ちや状態のことを指します。福祉など様々な分野でも取り入れられており、主に、「個人」の幸せを考える概念として注目されています。
今回の講座「愛媛におけるウェルビーイング」では、「個人」だけでなく、多様な価値基準を持った「私たち」が満たされるという観点から、ワークショップを交えながら進行していきました。


まずは、井口さんから愛媛全域の地域の現状について教えていただきました。
なんと県内のいくつもの自治体が限界集落や消滅可能性都市であると研究者の間で推定されているそうです。その事実にひめラーたちは驚いた様子もありつつ、井口さんのお話に一気に引き込まれていきました。
井口さんは長年、内子町小田地区で学生と聞き取り調査をされています。人口減少により「合祀(ごうし)」が進み、集落で唯一となった神社を、地域に住む最後の世代として、自分たちの手で壊す決断をした住民たちと一緒に神社の最期に立ち会った話や、「おねり」という地域から消滅してしまったお祭りを「もう一度やりたい」という地域住民の声に寄り添い、祭りとそれにまつわる記憶の復原に取り組まれた経験が語られました。


また、井口研究室の皆さんの活動の中で、当初はノートに聞き取りをまとめていたところ、「字が小さくて読めない!」という地域の方の声をもとに、どんどん文字と紙のサイズを大きくし、最終的には模造紙を使って記録するスタイルが定着したとのことで、16年かけて書き溜められた模造紙は、現在ではなんと700枚以上にもなるそうです。地域の声に耳を傾けながら、自分たちに合った方法で「記録のかたち」を編み出していく姿勢は、今後ひめラーが活動していく上でも、大きなヒントになりました。

午後からは、今年10月開催の「art venture ehime fes 2025」で、ひめラーたちがアーティストや地域と関わるための素地を作っていくワークショップを行いました。
小田地区で生まれ育った土居通康さんが自身の昭和時代の生活を記憶のみで鮮明に描いた絵画を題材に、「art venture ehime fes 2025」のテーマに沿って、どのように人々を巻き込みながら「アートでつながるコミュニティ」をつくっていけるか、各グループで考え、話し合います。
前回学んだ対話型鑑賞の手法を生かしながら、井口研究室の学生の解説も交えつつ、アイディアを膨らませていきました。


自然環境や地域の人たち、子どもたち、家族との関係性、当時使われていた生活の道具や仕事の道具など、絵から読み取れるさまざまなモチーフからたくさんのアイディアが生まれていきました。
例えば、描かれている情景を追体験できるような、古民家をまるごと使ったアート作品。お祭りを題材にした演劇の上演。当時の生活道具やお面の展示、小田地区で作られている郷土料理を生かした食の提案など、それぞれがユニークなアイディアで「アートでつながるコミュニティ」を構想していきました。


そして、各グループで話し合ったことを発表していきます。イメージ図を描いて詳しく説明するグループもあり、和気あいあいとした雰囲気の発表となりました。


今回の講座を通して、地域に存在する地域らしさはその場所の日々の「くらし」や「営み」の積み重ねであることに気付かされました。また、その土地の記憶を知り、その軌跡を文化として継承しながら残していくことが、自分たちや未来の子どもたちにとっての「ウェルビーイング」になっていくのではないか、という問いかけとともに、この日の講座は締めくくられました。
(art venture ehime スタッフ 竹宮華美)